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バムルンラード・インターナショナル田中先生の健康コラム第三弾

4月 01, 2021

なぜタイは帝王切開が多い?

タイにおける帝王切開の割合は年々増えていて、当院の帝王切開率は70%前後です。日本は施設によっても差はありますが、大体20から30%程度です。

しかし、決してタイ全体で帝王切開が多いわけではないようです。タイの初産婦さん11049人を対象にした2011年のレビューによると、タイ全体の帝王切開率は25.7%ですが、公立病院と比べて私立病院で明らかに帝王切開が多くなっています。

この理由を当院産婦人科部長のNopadol先生にお聞きしたところ、興味深い文化的背景について知ることができました。

タイでは妊婦さんは自由に経腟分娩か帝王切開かを選ぶことができます。
てっきり陣痛の痛みを避けるためだと思っていましたが、それよりも「経腟分娩によって分娩後に膣がゆるくなる」との心配から帝王切開を選ぶ方が多いそうです。
それからタイでは昔から産まれた日、曜日、時間などから赤ちゃんの性格や将来が決まると言われています。そこで出産予定日が決まるとお坊さんや占い師のところへ行きます。そこでどんな子に育ってほしいかや、お父さんやお母さんの誕生日などを伝えて、産まれるのに「最適な日時」を決めてもらいます。

選べる日程は妊娠38週~39週の間です。お坊さんによって何月何日何曜日、何時何分ということまで決まるとそれに合わせて帝王切開を行います。
ちなみにタイのラッキーナンバーは「9」です。例えば9時09分出生予定、ということになるとその少し前からお腹を開け始めて9時09分を待ち、ジャストタイムに子宮を切って出生!!となるそうです。

これに対して経腟分娩では、陣痛促進などをしたとしてもいつ産まれるという予測はたたないので日時を決めて産むということはやりません。

こういった予定帝王切開ができるのは富裕層のみです。なぜなら一般市民にとって帝王切開の分娩費用はとても高価だからです。さらに帝王切開は病院にとっても都合は良く、スケジュールが決まっていて、自然分娩に比べてお産の時間はとても短く済みます。これも帝王切開が増えている一因かもしれません。
タイでの分娩費用の目安(バーツ)  
自然分娩(無痛なし): 5,000-30,000 私立病院 35,000-90,000
帝王切開: 公立病院 10,000-40,000  私立病院 45,000-130,000

一方、日本では帝王切開は公的医療保険の対象になりますから、基本的には医学的な適応がある場合に限られていて、自由には選べません。
また、帝王切開には以下のような合併症の問題があります。
出血や感染、血栓症の頻度は経腟分娩に比べて高くなります。お腹を開けるので、術後に腸や腹壁に癒着が起こることもあります。さらに、次に妊娠したときの合併症の頻度も高くなります。具体的には子宮破裂(1回切ったところが陣痛や強い張りに伴って避けてしまう)、前置胎盤、癒着胎盤などです。そのためお母さんのリスク、今後の健康を考えた場合には、帝王切開を安易に選択することは避けたほうがいいかもしれません。

帝王切開になると次のお産も大体は帝王切開になりますから、その割合は年々増えていくというわけです。WHOは帝王切開が必要なケース、合併症の問題、両方の事情を合わせて理想的な帝王切開率を15%としています。

ただ、帝王切開は緊急で分娩が必要な赤ちゃんや逆子の赤ちゃん、子宮手術の既往やその他合併症を持つ妊婦さんたちにとってはなくてはならない手段です。もし担当医が母子の安全を考えた上で帝王切開の適用を判断している場合は、担当医を信頼してくださって大丈夫です。
ところで初めに、当院の帝王切開率は70%前後といいましたが、実は当院でお産された日本人の方は、6割以上が経腟分娩でお産されています。初産婦さんに関しては半数近くが帝王切開となりましたが、この中で多かった理由は分娩停止、ご本人の希望、その他の理由でした。

分娩停止というのは、陣痛が来てお産が進んでいたけれども途中からお産が進まなくなってしまった状態のことをいいます。原因として多いのは赤ちゃんの回旋異常(顔をお母さんの背中側に向けて産まれてくるが、途中でお腹側を向いてしまって産道を上手く降りられなくなった)や、児頭骨盤不均衡(骨盤に対して赤ちゃんの頭が大きくて、分娩が進行しない状態)などです。

当院産婦人科部長のNopadol先生は経腟分娩を強く推奨されており、担当患者さんの経腟分娩の割合が高いです。もちろん最初から帝王切開希望の方もいますが、経腟希望の方に関して完遂率が高いです。他にも日本人の患者さんからの信頼が厚いRasik先生、時間をかけて診察をしてくれるPrakrit先生、女医さんのSomsri先生、たくさんの先生が帝王切開はもちろん、経腟分娩の経験も豊富です。

Nopadol先生は、当院の産科の看護師、スタッフはとても優秀と話します。何かあった場合に、まず初めに異常を察知して報告するのは看護師ですからこれはとても大切です。それから赤ちゃんが入院するのはNICUですが、当院のNICUは24週から対応が可能で、常勤のNICU専門のドクターが3名おります。産科と小児科で連携して患者さんのケアにあたっています。もちろん無痛分娩対応についても、麻酔科医が24時間待機しています。

以上帝王切開事情についてお話しましたが、ちなみに「産後の性機能」については、いくつかの調査から経腟分娩と帝王切開の間で差がないと言われています。授乳は一時的な性機能の低下と関係があるようですが、多くの女性が産後3から6か月後には再び性生活を楽しめるようになります。

ただし、経腟分娩は骨盤臓器脱といって加齢とともに膀胱、子宮、直腸といった骨盤臓器が膣の入り口から飛び出てきてしまう状態のリスクになります。産後の尿漏れに悩まされている方も多いと思いますが、骨盤底筋を鍛えることで予防と治療に役立ちます。具体的には、おなかとお尻の力を抜いて、肛門と膣、尿道を締めて息を吐きながらグーッと持ち上げて、5から10秒静止する体操です。どんな姿勢でおこなってもかまいません。

経腟分娩と帝王切開、どちらにもメリットデメリットはあります。自分の希望やライフスタイル、また妊娠経過などもふまえて、担当医と出産スタイルについて、納得いくまで相談することが大切です。また、もし何か気になることがあれば日本人コーディネーション医師の田中もいつでも無料相談を受け付けております。
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